不当なお金でも返さなくていいの?【不当利得】

不当なお金でも返さなくていいの?【不当利得】

 

原因がない利益を不当利得という

不当利得とは?

こんにちは、行政書士福岡法務です。行政書士試験の中で民法の勉強をするのですが、この「不当利得」というものを知り、おもしろい法律だなと思いました。不当利得とは、例えばAとBが時計の売買契約を結び、BがAにお金を支払ったとします。しかし、その売買契約そのものが無効であったり取り消された場合は、Aがもらったお金は法律上の原因を欠く事になりますので、そのお金を返還しなさいよという法律です。民法703条に「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。」と定められています。当たり前のことじゃんと思うかもしれませんが、もう少し掘り下げていくと面白い事が分かってきます。

 

不当利得の成立要件

不当利得が成立する為には4つの要件が挙げられます。

  • 損失が生じたこと
  • 他人が利益(財産又は労務)を得たこと
  • 利益と損失に因果関係があること
  • 法律上の原因がないこと

 

上で書いた時計の売買が無効だったという例で説明すると、お金をもらったAは利益を得ており、支払ったBは損失が生じています。そこには因果関係もあり時計の売買が無効であるのであれば「法律上の原因がない」ということになります。不当利得の成立要件を満たしているということになりますね。

 

不当利得を返さなくいい場合もある

善意・悪意の受益者の違い

不当利得は貰うべき利益じゃないから返しなさいという義務を負うということですが、受益者(利益を受けた者)が善意か悪意かで返還する義務の範囲が変わってきます。善意の受益者(法律上の原因のないことを知らない)であれば、利益の存する限度(現存利益)を返せばいいのです。この現存利益とは、文字通り現に残っている利益という意味です。例えば、時計の売買が無効になり10万円の不当利得を得たAがギャンブルにて全額使ってしまったとします。そうなれば、現存利益はないということになりますので返還義務を負わなくてよいということになります。しかし、10万円の不当利得をギャンブルでなく生活費などの費用に使った場合は返還義務を負うことになっています。

 

これが悪意の受益者(法律上の原因のないことを知っていた)の場合はどうなるでしょうか?悪意の場合は受けた利益に利息を付けて返還し、損害があるときはその損害の責任まで負わなければなりません。ただし、制限行為能力者(未成年等)の場合は、例え悪意であっても善意と同様に現存利益のみを返還すればよいとされています。

 

債務の不存在を知ってした弁済

民法705条には「債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができない。」と定められています。債務がないにもかかわらず、弁済する事を「非債弁済」と言いますが、原則は不当利得を理由に返還請求できます。しかし、非債弁済であることを知りながら給付した場合は返還請求ができないというのがこの法律です。ただ、強制執行を免れる為に給付した等、任意に給付したといえないときは民法705条の適用はありません。

 

期限前の弁済

民法706条には「債務者は、弁済期にない債務の弁済として給付をしたときは、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、債務者が錯誤によってその給付をしたときは、債権者は、これによって得た利益を返還しなければならない。」と定められています。これは条文のまま読むと分かると思いますが、そりゃそうだろという感じです。

 

他人の債務の弁済

民法707条には「①債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合において、債権者が善意で証書を滅失させ若しくは損傷し、担保を放棄し、又は時効によってその債権を失ったときは、その弁済をした者は、返還の請求をすることができない。②前項の規定は、弁済をした者から債務者に対する求償権の行使を妨げない。」と定められています。不当利得の原則としては錯誤によって債務の弁済をした場合でも不当利得として返還請求ができますが、債権者が有効な弁済と善意で信じて担保を放棄したりすれば返還請求ができないというものです。ようは、弁済者と債権者どちらを守るかという法律ですね。これに関係してくるのが民法474条1項なのですが「債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。」とあります。これは、他人が債務者に代わり弁済したときは、第三者の弁済として効力があるということです。なので債権者が第三者の弁済によって債権が消滅したと信じ担保を放棄したりすることもあるのです。ただ、その第三者が錯誤で弁済してしまうということも想定できます。そこで民法707条の出番となるのです。もちろん、弁済者が債権者に返還請求できなくなった場合でも、債務者に求償することはできます。

 

不法原因給付

民法708条には「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。」と定められています。愛人契約などがこれにあたり、毎月お手当てとして20万円支払っていたとしても返還請求はできないというものです。たしかに、愛人契約は公序良俗に違反してる事になるので契約は無効となります。無効となればお手当ては不当利得となるので返還請求ができるように考えてしまいます。ただ、法律は自ら法を尊重するものだけが、法の救済を受けるという原則(クリーンハンズの原則)とされており不法原因給付がそれにあたります。ちなみに、愛人契約で未登記建物を贈与した場合は登記せずとも引き渡しで不法原因給付として返還請求はできません。既登記建物の場合は引渡しのみでは給付にはあたりません。